〔第19講 **解説** 〕形だけのヒヤリハット
1.問題の本質
この事例の真のヒャとしたことが出ない原因は幾つか考えられる。
一つは、ベテランの看護師にとってヒャとするようなことはあってはならない、という考えがある。
このことが、たとえヒャとした場面を体験してもそれをオープンに出来ないのである。
ベテランであればあるほど、ヒャとしたケースを出すことは、恥ずかしいことであり、出せなくなってしまっているのである。
もう一つ、さらに根本的な問題がある。
上記のような状況に陥り、形だけのヒヤリハット提案になっているのは、このヒヤリハットを提案することの意義や本質を理解していないことにある。
ヒヤリハットの本質は対応策で解説するが、この根本的な理解が出来ていなければ、ヒヤリハットの提案活動は成功しない。
最後に重要なことは、人はミスを犯すものであるという認識である。
ヒャとすることの多くの原因は不注意によるミスや、ルールを無視することにある。
ヒヤリハットの提案は、人はミスや間違いを犯すものという前提からスタートするものである。
2.対応策
この事例の対応策は基本的に三つある。
一つはヒヤリハットの提案活動の本質を理解させることである。
ヒヤリハットを提案することは、自分達が直面したヒャとしたこと、ハッとしたことをオープンにし、共有化することにより改善につなげていこうとするものである。
ヒャとした経験があること自体が責められるものではなく、そのような事実をオープンにしないことが責められるべき行為である、ということの認識が重要である。
この点を再度教育していくことが必要であろう。
もう一つは、看護課長の率先垂範である。
看護課長自身が率先して、自分のヒャとした事実を積極的に公表すべきである。
看護課長に続き監督者である主任クラスも自分の本当にヒャとした体験をオープンにすることが大切である。
グループりリーダーである看護課長や主任が、生々しい事例を出すことで、メンバーは提案しやすくなるし、組織としての姿勢を理解し、実感することができる。
そして、最後に重要な点は、ただ提案するだけでなく、具体的な改善につなげることである。
改善につなげていく事実を体験するとヒヤリハット提案の本質が理解されることになる。
提案するだけで中途半端になってはこのような活動は成功しないものである。